ポピュリズムとは何か 後編

次に欧州です。欧州については余りにも事例が多すぎて手元に本が無い今の状況では詳細に書けません。間違ったこと書かない程度に広く浅く書きます。

 

まず欧州という地域の特性から。欧州は当たり前ですが、皆さん大好き民主主義の発祥の地です。フランス革命やら名誉革命やら「お前ら革命どんだけすんだよ」ってぐらい色々ありましたよね。そんな土壌なので所謂リベラルさんが猛烈に幅を利かせてる土地です。過激な思想は好まず、男女平等は言わずもがなとして人類平等を標榜し、間違っても北の独裁国家の様なスタイルにはならない空気感です。民衆も最早遺伝子レベルで民主主義の精神を兼ね備えており、積極的な政治参加やストライキ、デモが活発に行われています。表現の自由にも積極的です。日本のフェミ界隈やらがやたらめったらにフランスさんだいちゅきホールドなのはこういう空気感の国だからです。

 

スイスという国に対してどのようなイメージを持っていますか?アルプスの少女ハイジの舞台で、自然は綺麗で、永世中立国で国連の組織がいっぱい置かれてて平和そうで(実際は傭兵派遣国家として生き長らえて来た国ですが)、如何にも「理想の国」という感じが一般的なイメージです。国民投票制度が猛烈な威力を誇っている国でもあります。まさに「民主主義のお手本」といった感じです。余談ですが日本人のスイス好きは異常なレベルです。百年前ぐらいに社会民主党の創設者・安部磯雄が「スイスまじ良いよ、みんな見習おうぜ」といった内容の講演を既にやってたぐらいです。

 

オランダはどうでしょうか?これは賛否両論ありますが「自由の国」という感じです。風俗は合法、大麻も合法、安楽死も合法。何でもアリのパラダイス国家。非常に楽しそうですね。

 

他にもドイツやフランス、ベルギーなどヨーロッパ諸国に対しての日本人が抱くイメージは良好である事が多く、実際にそれらの国の政治制度は模範とされて「欧州モデル」と呼ばれて広く学ばれました。

しかし、上記の国は全て21世紀以降ポピュリズム政党がウェイウェイしてました。一般に過激派と捉えられるポピュリズム政党。現にドイツではナチス時代への反省から急進的右翼発言の規制をやってたぐらいです。

では何故これら「民主主義のお手本国家」でポピュリズム政党が台頭できたのか?それは彼らの主張が「リベラルに基づいた排外主義」だからです。

 

先のラテンアメリカの事例とは違い、欧州の国は概して裕福であり、勿論一部の超金持ちはいますがそれ以外の大衆も生きるのに困らない生活を送れます。要は「目に見える格差があまり無い」国です。社会保障制度も充実し、最近ではスイスのベーシックインカムが話題になりました。これらの国で先ほどの南米型ポピュリズムは流行りません。「いや俺らそんなに困ってないし……それより私有財産だけはちゃんと守ってや」というのが素直な市民感情です。

 

ではこれらの国に対して主に21世紀以降どのような社会問題が起きているか?それは難民です。中東は相変わらずガッタガタ、特にシリアは超ヤベェ。その結果大量のアラブ系の人々が欧州に流れ着いたのがここら辺の時代です。ドイツでは100万人規模の難民受け入れを発表したりして。しかしこれら難民政策は大きなデメリットを生みました。欧州の「イスラム化」です。失業率は割と高い欧州。そこに大量の移民が流れ込み社会保障制度を圧迫し、道を歩けばそこら辺に謎の宗教的服装の人達がいる。如何に自由闊達リベラル万歳の欧州でも、じわじわと彼らへのヘイトが高まります。

フランスのどこかの出版社がイスラム教を風刺したイラストを発表し、それに対してテロが起きました。表現の自由の侵害だ!とフランス人達はブチギレます。以降も中東系の人々によるテロは相次ぎ、一気に不安定な世の中になります。

 

ここにポピュリズム政党の台頭する土壌が生まれます。曰く彼らの主張は「リベラルを以てリベラルに反する彼らを迫害する」。リベラルを愛するが余り、その価値観を認めないイスラム教徒は迫害してオッケーという考えです。イスラム教では今も男尊女卑の価値観が根強く、欧州のリベラル達はこれに非常な嫌悪感を抱きます。更には現実的な金の問題として彼らへの支援が国の財政を圧迫しています。

 

オランダのピム・フォルタインさんはかなり早期に欧州でポピュリズム運動を起こした人物として知られます。同性愛者である事をカミングアウトしていた彼は男女平等のみならず同性愛も賛成派。他にも安楽死大麻など「自由」に関連することは全て容認姿勢です。本人もやたらオシャレで民衆ウケも良い。まさにカリスマです。彼はそのリベラル気質故に、その価値観とそぐわないイスラム教徒達を「未開の土人」呼ばわりして攻撃します。以降もフォルタインの流れを継いだ人物がオランダで同じような姿勢のポピュリスト政党を率いたりしてます。

 

ドイツではナチス時代への反省から基本的に人類しゅきしゅきモードが主流です。しかし難民百万人受け入れなんぞハナから無理があったのかやがて彼らへの市民感情は悪化の一途を辿ります。そんな時に現れたのが「ドイツのための選択肢」。元々はギリシャ経済危機を契機に「なんで俺らがあんな国の借金を支えなあかんねんこらボケェ」という主張でEU脱退を唱え一定の支持を得た団体です。その政党が難民問題に対しても噛み付き、遂には第一野党になったり難民受け入れ体制を覆したりと大出世します。この時に彼らが唱えた「迫害してもいい理論」も、オランダや他の国と同じような「リベラルに基づいた迫害」です。

 

他にもベルギーやデンマークなど本書で触れられている国についても話すべきですが、余りにも多いので割愛します。要は「民主主義が徹底的に浸透している国でもポピュリズムは発展する余地があるよ」ってことです。有名な言葉で「ポピュリズムはデモクラシーの後を亡霊のようについてくる」的な言葉があります。デモクラシーによって生まれた自由・博愛の精神が、やがて異なる価値観(=リベラルを重視しない人々)への軋轢を生み、やがてはポピュリズム運動に繋がるという皮肉すぎる事実を言い表した言葉です。怖いですね。さよなら